パン屋さんの雑談力がものすごかった話

個人的には、「ご飯派」だったりするのですが、
それでもたまには朝食にパンを食べたくなることがあります。


数日前の朝、
思い立って少し歩いたところにあるパン屋さんに行きました。

ちょっと遠いところなのですが、良い運動になると思い、
ウォーキングを兼ねて買いに行ったわけです。


天然酵母を使用したパン、
というと最近ではあまり珍しくなくなりましたが、
その店は朝からかなりの来客がありました。


ああ、これはきっとおいしいパンにありつけるに違いない。


そう思って僕は好みの総菜パンをいくつかとり、
トレイに乗せてレジの列に並びました。


並んでいたのは3組。
1組目の親子連れは、パンをかなりの数買い込んでいたのですが、
レジのおばちゃんはそれをてきぱきと袋に入れていく。


「お嬢ちゃん、もうすぐ学校の音楽祭なんでしょう?」
「何で知ってるの~?」
「他のお客さんから聞いたのよ。どんなお歌やるの?」
袋に入れている間、お客さんを退屈させないための会話が快い。


2組目の夫婦は、食パンを一斤と、瓶詰のジャムを購入していた。
食パン用の紙袋をさっと広げながら、
「いやー、今日は突然寒くなったわねぇ」
「ねぇ、ほんとに。一気に冬になった感じですよね」
おばちゃんとお客さんの会話が、やっぱり弾む。


次が、僕の番。
総菜パンを一つ一つビニール袋に入れながら、
おばちゃんはこう言ったのです。

「カープ、負けちゃったわね…」
「残念でしたね、もうひと試合見たかったのに」
※日本シリーズで日本ハムがカープに4勝した翌日でした。

なぜこのおばちゃんがすごいな、と思ったか。
それは「雑談の話題選び」です。


1組目は親子連れ。

パッキングしている間に退屈してしまうのは当然子供の方なので、
待たせている間は子供に話しかけるのが定石なのでしょう。
お母さんも子供の相手をしてくれるのは嬉しいものです。

そして、子供の背格好から女の子が小学生であることは誰にでもわかりますが、
他のお客さんとの会話の蓄積が「音楽祭」という具体的な話題につながっています。


2組目の夫婦。

天気の話題というのは雑談の鉄板ネタで、誰でも提供できるものですが、
だからこそ退屈な話題にも思えます。
美容院でも毎月のように「寒くなりましたね~」しか言われないと、
飽きるじゃないですか。

でも、上には書かなかったのですが、
実はレジで会計を待つ間、奥さんの方が小刻みに掌をこすり合わせていました。
寒そうにしているしぐさを鋭く察知したおばちゃんは、
迷わず天気の話を話題に選んだ、というわけです。


3組目の僕。
1人で買い物に来ているので家族構成は分からない。
でもウォーキングを兼ねて、ジャージ姿で買い物に来ているから、
「スポーツネタ」なら無難だろう、と判断したのでしょう。



このおばちゃんの雑談力はすべて「観察力」からスタートしています。
お客さんのことを見る「観察力」と、
そこから最適な話題を選ぶ「引き出し」と、
お客さんに心地よく会話してもらう「表情」。


「会話力」「コミュニケーション能力」というと
人前で話すとか、あがらずに話す、といった発信者としての面を
意識する方が非常に多いのですが、

実はそれと同様に大事なのが、受信者としての面です。


話を聞くことももちろんそうですが、
相手の表情、服装、しぐさ・・・いろいろなものが、
自分が次に何を話せばいいのか?のヒントを与えてくれるのです。


さあ、ちょっと考えてみましょう。
例えば、4組目のお客さんが「老夫婦」だったら・・・。

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